めでたし、めでたし。
845字 · 約2分
校庭を走る君の姿に、思わず目がいってしまう。
背は低いけれども足の回転を速くして、誰よりも速く走る。
バットを振る身体も、軸が入っていて、何があってもブレない。
大きな声かけをして、仲間を勇気づけて、率先して片付けをして、一生懸命になる君。
野球に夢中で、恋愛なんかちっとも興味がない。
――でも、それで、いいの。
どきどき、とか。きゅん、とか。
恋愛には心臓を狂わされることがつきものだ。
彼を目で追って、その姿に、笑顔に、ときめいて。
私は今日も、進んで脈を狂わせる。
彼が好きだから。
でも、好きなのに、告白したくなかった。
終わらせたくなかったから。
自分が、彼を幸せにできる自信がなかった。
自分が隣にいなくてもよかった。
自分が彼を幸せにできなくても構わなかった。
私の大好きなその笑顔を、遠くから見つめているだけで、よかった。
想いを伝える気はなかった。
彼を遠くから見つめる。
私は、こうしていられるのが一番幸せだから。
なのに、急に変な感情が降ってきて。
彼はいきなり私に関わるようになり、私は彼に近づくようになり。
私の心は塗り替えられ、身体の主導権はどこか上に持ってかれてしまった。
いい予感はしないと思いながら嫌々豹変した毎日を過ごしていた矢先、突然勇気が投入されて。
身体に、抗えなくて、私は告白した。
彼は満面の笑みで承諾したが、私にはその笑みがひどく濁って見えた。
⋯⋯ああ、そうか。
“私は彼を遠くから見ているのが好きだから”
私は彼の恋人になんてなりたくなかった。ただの傍観者でありたかった。彼の視界に入らないところから幸せそうな彼を眺めて、その幸せが続いて欲しかった。このお互いに関わらない関係が変わってほしくなかった。
“もう、終わるから”
――もう、価値なんてないんだ。
私と彼は結ばれて、幸せに生きました。
めでたし、めでたし。