その日は、やけに空が低かった。
雲が街を押しつぶそうとしているみたいで、
私は無意識に歩く速度を上げていた。
——嫌な予感って、だいたい
当たる
地方都市・潮見市の駅前。
夕方の雑踏はいつも通りなのに、空気だけが妙に重い。
交差点を渡ろうとした、その時だった。
……先輩?
背後から、かすれた声がした。
振り返ると、制服姿の女の子が立っている。
少し息を切らし、肩を強張らせたその表情に、
見覚えがあった
……篠宮?
篠宮とは
同じ学校の、一つ下。
いつも静かで、人の後ろに隠れるように笑う後輩。
でも、今の彼女は違った。
顔色が悪く、指先が微かに震えている。
まるで、何かから逃げてきたみたいに。
た、助けてください……
その瞬間、雨が落ちてきた。
ぽつり、ぽつりと、アスファルトを黒く染めていく。
何があったの
そう聞いた私の声は、思ったより落ち着いていた。
けれど胸の奥が、
ざわりと音を立てる。
結乃は、周囲を気にするように視線を走らせてから、
小さく首を振った。
……ここじゃ、言えません
遠くで、パトカーのサイレンが鳴った。
近づいてくるわけでもないのに、やけに耳に残る音。
街はいつも通りだ。
なのに、世界だけが少し歪んだ気がした。
……わかった、ついてきて
結乃は、縋るように頷いた。
通り雨は、まだ止まない。
この夜が、ただの雨で終わらないことを——
私はもう、
わかっていた。