第四話〜鍵の重さ〜
翌朝、潮見南高校はいつも通りだった。
笑い声も、チャイムの音も、変わらない。
——変わらないふりをしているだけで。
昇降口で靴を替えていると、結乃が私の袖を引いた。
「……澪先輩」
声が、いつもより低い。
「今朝、知らない番号からメッセージが来ました」
スマホを差し出される。
画面には、短い一文。
《思い出さなくていい》
喉の奥が、冷たくなる。
「消してない?」
「……怖くて」
「正解」
私は即答した。
「こういうのは、証拠になる」
結乃は、少しだけ目を見開いた。
昼休み。
人目を避けて、使われていない旧図書室に入る。
「偶然じゃない」
私は静かに言った。
「結乃が鍵だって、向こうは分かってる」
「……やっぱり」
結乃は、膝の上で手を握りしめた。
「先輩、私……重いですか」
一瞬、意味を測る。
「この記憶」
私は、迷わなかった。
「重い」
はっきり言った。
「でも、持てない重さじゃない」
結乃は、泣きそうな顔で笑った。
放課後。
校舎を出ると、誰かの視線を感じた。
振り返っても、人はいない。
でも——
結乃が、小さく息を詰めた。
「……いました」
「どこ」
「……三階の窓」
そこには、カーテンの隙間。
人影が、一瞬だけ動いた。
私は結乃の前に立った。
鍵は、ここにある。
重いけど——
絶対落とさない。
落とさせない。