目次に戻る 紗良(=^・^=)

第三話〜傷の名前〜

 結乃を家まで送った帰り道、私はわざと遠回りをした。
 理由は簡単だ。

 ——確認。


 ガラスに映る自分の背後を、何度も確かめる。
 人影は、、ない

 それでも、背中が冷える感覚は消えなかった。

 私は、こういう夜を知っている。





 高校一年の冬。
 今よりずっとずっと、弱かった頃の話だ。

 終電を逃して、近道の公園を通った。
 街灯の下で、誰かが倒れていた。

 声をかけようとして、足が止まる。

 足音が、近づいてきた。

 ……逃げた。

 振り返らず、息が切れるまで走った。

 翌朝、ニュースになった。
 その人は、助からなかった。

 未解決事件。

 それが、私の中に残ったままの名前だ。





 スマホが震えた。

 《澪先輩へ》

 結乃からだ。

 《すみません、今……変なこと思い出しました》

 嫌な予感が、はっきり形になる。

 《あの人、倒れてただけじゃなかった気がします》

 指が、一瞬止まる。

 《スマホを、握ってました》

 《画面、光ってて……》

 私は、すぐに打ち返した。

 《何が映ってた?》

 返事が来るまで、長かった。
 1分位経った頃返信があった。

 《……、です》

 《誰かの》

 その瞬間、胸の奥で何かが噛み合った。

 倒れていた人は、最後に何かを残そうとした。
 そして結乃は、それを見てしまった。

 ——犯人の顔。

 私は立ち止まり、夜空を見上げた。

「……今度こそ」

 小さく、でも確かに言った。

 逃げない。
 過去からも、今からも。

 結乃は鍵を握っている。
 そして私は——

 その鍵を、折れない手で守る。
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