結乃を家まで送った帰り道、私はわざと遠回りをした。
理由は簡単だ。
——確認。
ガラスに映る自分の背後を、何度も確かめる。
人影は、、
ない。
それでも、背中が冷える感覚は消えなかった。
私は、こういう夜を知っている。
高校一年の冬。
今よりずっとずっと、弱かった頃の話だ。
終電を逃して、近道の公園を通った。
街灯の下で、誰かが倒れていた。
声をかけようとして、足が止まる。
足音が、近づいてきた。
……逃げた。
振り返らず、息が切れるまで走った。
翌朝、ニュースになった。
その人は、助からなかった。
未解決事件。
それが、私の中に残ったままの
名前だ。
スマホが震えた。
《澪先輩へ》
結乃からだ。
《すみません、今……変なこと思い出しました》
嫌な予感が、はっきり形になる。
《あの人、倒れてただけじゃなかった気がします》
指が、一瞬止まる。
《スマホを、握ってました》
《画面、光ってて……》
私は、すぐに打ち返した。
《何が映ってた?》
返事が来るまで、長かった。
1分位経った頃返信があった。
《……
顔、です》
《誰かの》
その瞬間、胸の奥で何かが噛み合った。
倒れていた人は、最後に
何かを残そうとした。
そして結乃は、それを見てしまった。
——犯人の顔。
私は立ち止まり、夜空を見上げた。
「……今度こそ」
小さく、でも
確かに言った。
逃げない。
過去からも、今からも。
結乃は鍵を握っている。
そして私は——
その鍵を、
折れない手で守る。