埴輪 挂甲の武人 誕生
第2話 / 全5話 · 541字 · 約2分
時は6世紀。
今でいうところの古墳時代だ。
私は、まだ名もなき土だった。
大地の奥深く、雨と風に幾年撫でられながら眠っていた粘土。ある日の朝、鍬の音が静寂を破った。
「ここだ、この土は良い。」
人の手が私を掘り起こした。冷たい空気に触れたその瞬間、私は初めて世界を知った。
やがて職人の工房へ運ばれる。水が混ぜられ、踏まれ、こねられ、私は柔らかい塊になった。
職人の手は迷いがなかった。
胴。
腕。
足。
そして胸には、戦いのための甲冑。
彼は一本一本、粘土の紐を積み重ね、私の体を形作った。顔には丸い目、真っ直ぐな鼻。口は静かに閉じられている。
「これは武人だ。」
その言葉で、私は初めて自分の役割を知った。
守る者。
見張る者。
古墳の上に立ち、永遠に主人を護る存在。
形が完成すると、私は窯の中へ入れられた。
炎が唸り、熱が体を包む。
焼かれることは苦しみではなかった。
それは、土が永遠になる瞬間だった。
やがて窯が開かれる。
私はもう柔らかい土ではない。
硬く、赤く焼き締められた武人。
こうして私は生まれた。
千年以上の時を見守るために。