目次に戻る てみ

第1話:狙った幸運、明後日の方へ


 天界の「神様養成学校」。その卒業試験の通知が、福之助(ふくのすけ)の元に届いた。
試験の内容はは「地上に降り、人間3人を『心からの笑顔』にすること」
 福之助は、神様らしい白い狩衣(かりぎぬ)の裾をバタバタさせながら、勇んで人間界へと飛び出した。

 彼がターゲットに選んだのは、公園のベンチで深いため息をついている青年、佐藤。
「ふむ、彼は就職活動に全敗して落ち込んでいるようだな。ならば、私がお得意の『幸運の奇跡』で、最高の就職先をプレゼントしてやろう!」

 福之助は指先をパチンと鳴らした。
 彼の狙いは、佐藤くんの目の前を通りかかる「大企業の社長」が、偶然落とした重要書類を佐藤がスマートに拾い、それが縁でスカウトされる……という完璧なシナリオ。

 しかし。
 福之助の指先から放たれた「幸運の光」は、空中でフワリと急カーブを描いた。

「えっ、そっち!?」

 光が直撃したのは、社長ではなく、公園のステージでヒーローショーの準備をしていたスタッフだった。
 直後、どこからか突風が吹き荒れる。ステージ裏から飛び出してきたのは、風に煽られて制御不能になった「巨大なピンクのウサギの着ぐるみ」!

「わわわっ!?」
 ベンチで俯いていた佐藤の頭上に、巨大なウサギがダイブした。

「ぐえっ!」
 佐藤は、重たい着ぐるみの下敷きになった。
 福之助は顔を青くして駆け寄る。
「大変だ! 幸運のはずが、ただの衝突事故に!」


「ちょっと君! 助かったよ、ありがとう!」
 駆け寄ってきたのは、ヒーローショーの主催者だった。どうやら着ぐるみが飛んでいって看板を壊すのを、佐藤が身を挺して止めた形になったらしい。

「実は今、中の人が急病で困ってたんだ! お礼をするから、ちょっとこのままステージに出てくれないか!?」
「えっ、あ、はい……?」

 断る間もなく、佐藤はウサギの姿でステージに押し出された。
 福之助は冷や汗を流しながら見守る。
「マズい……。スーツを着て面接に行くはずだった彼が、なぜかピンクのウサギとして子供たちの前で踊っている……。これは不合格だ……」

 しかし、予想外のことが起きた。
 佐藤くんのぎこちない、どこか必死なウサギのダンスが、公園にいた子供たちに大ウケしたのだ。
「あはは! あのウサギ、面白い!」
「がんばれー!」

 子供たちの歓声。それを見た佐藤は、着ぐるみの中でふと気づいた。
「……僕、誰かを笑わせるの、初めてかもしれない」

 その瞬間。佐藤の顔に、就職活動のストレスを忘れた、柔らかな笑みが浮かんだ。

「おっ、笑顔になった! ……でも、これって僕の狙い通りなのか?」
 福之助が首をかしげていると、ショーの主催者が佐藤に名刺を差し出した。
「君、才能あるよ! うちのイベント会社で働かないか?」

 こうして佐藤は、大企業ではなく、イベント会社に就職が決まった。
 福之助は天を仰いだ。
「……結果オーライだけど、やっぱりこれ、ピントがズレすぎだよなあ」

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