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麻鬼

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第2話 / 全3話 · 1,855字 · 約4分
第2話 始まりの評価

翌朝。

オーバーアマガウの町は、昨日の逆転勝利の話題で持ちきりだった。

小さなカフェでは試合映像が流れ、駅前では子どもたちが翔のゴールを真似していた。

だが当の本人は浮かれていなかった。

天城翔はいつも通り早朝にクラブハウスへ向かう。

まだ誰もいないグラウンド。

冷たい空気の中、一人でボールを蹴り続ける。

シュート。

トラップ。

ドリブル。

何度も繰り返す。

「昨日のヒーローがもう練習か。」

聞き慣れた声がした。

振り返ると、FCアマガウのキャプテンであるルーカス・オブライヴが立っていた。

「まだ何も成し遂げてませんから。」

翔が答える。

ルーカスは腕を組んだ。

「普通なら浮かれるところだ。」

「俺はまだスタートラインにも立ててません。」

しばらく沈黙が続いた後、ルーカスは笑った。

「だからお前は面白い。」

---

数日後。

練習終了後、監督が選手たちを集めた。

「次節の先発メンバーを発表する。」

ロッカールームの空気が変わる。

名前が一人ずつ読み上げられていく。

そして。

「フォワード、ショウ・アマギ。」

翔は思わず顔を上げた。

初先発だった。

チームメイトたちが拍手する。

ルーカスも親指を立てていた。

だが全員が歓迎しているわけではない。

エースストライカーのマルコ・ヴァイスだけは無言だった。

負傷から復帰したばかりの彼にとって、翔はポジションを脅かす存在になり始めていた。

---

試合当日。

相手はリーグ3位の強豪クラブ。

キックオフ直後からFCアマガウは押し込まれる。

前半17分。

ミドルシュートを決められ失点。

さらに33分。

コーナーキックから追加点。

0-2。

スタンドは静まり返った。

翔も苦しんでいた。

何度も前線で動く。

だがボールが来ない。

チームはまだ翔を完全には信用していなかった。

---

ハーフタイム。

ロッカールームは重苦しい空気に包まれていた。

誰も口を開かない。

その時だった。

「まだ終わってない。」

立ち上がったのは翔だった。

全員の視線が集まる。

「俺たちは負けるためにここにいるんじゃない。」

たどたどしいドイツ語。

それでも言葉は伝わった。

ルーカスが立ち上がる。

「その通りだ。」

キャプテンの一言で空気が変わった。

「あと45分ある。戦うぞ。」

選手たちはうなずいた。

---

後半開始。

FCアマガウは見違えるように動き出した。

53分。

翔が中盤まで下がってボールを受ける。

相手二人を引きつける。

そして右サイドへスルーパス。

抜け出した味方がそのままシュート。

ゴール。

1-2。

スタジアムが歓声に包まれる。

---

76分。

ルーカスが奪ったボールを前線へ送る。

クロスが上がる。

翔とDFが同時に飛ぶ。

激しくぶつかる。

それでも翔は競り勝った。

ヘディングシュート。

ボールはゴール右隅へ吸い込まれる。

2-2。

同点。

観客は総立ちになった。

---

試合終了。

スコアは2-2。

引き分け。

だが選手たちの表情は明るかった。

強豪相手に2点差を追いついたのだ。

ロッカールームへ向かう途中。

監督が翔を呼び止めた。

「ショウ。」

「はい。」

監督はスタンドを指差した。

「あそこにいた男を見たか?」

翔は首を振る。

「ブンデスリーガ2部クラブのスカウトだ。」

翔の心臓が大きく鳴る。

監督は続けた。

「お前のプレーを見に来たわけじゃない。」

翔の表情が曇る。

「だが帰る頃には、お前の名前をメモしていた。」

翔は言葉を失った。

ドイツ3部リーグ。

小さな町のクラブ。

その場所から、少しだけ世界への扉が開き始めていた。
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