Case01 名前
埴輪武人________
その名前が、彼の政治人生で最大の障壁となった。
公示前の与党、GU民主党の幹部会議。候補者リストを前に、選対責任者は眉をひそめる。
「埴輪……武人? この名前で票が落ちる」
政策や経歴の話は議論にすらならなかった。名前がネタ扱いされる瞬間、選挙戦略としての価値は消える。
結果、G民党の公認は出なかった。制度上は可能でも、政治戦略としては「異物候補」は扱わない方が安全――そう判断されたのだ。
しかし、埴輪の目は揺らがなかった。
「俺は本気だ。議員になるために出る」
この一言に、誰も笑わなかった。制度も選対も無関心も、関係ない。
事務所で秘書の幣呂幣呂彦が書類をめくる。
「正攻法は無理です。公認も出ない。経歴がきれいすぎて、政治ドラマとして弱すぎる」
「勝つためにやるわけじゃない」
「……?」
「議員になって、この国の意思決定が、誰にも見えない場所で終わる構造を変える」
幣呂幣呂彦は静かに頷いた。
「制度の隙間を通るしかありませんね」
街頭演説の準備をするスタッフを、埴輪は無言で見つめる。誰も彼の名前に注目しない。
だが、彼の目には数字や票の心配より、制度の盲点を突き、政治を可視化することが映っていた。
「幣呂」
「はい」
「政治って、いつからこんな形になった?」
「最初からです。ただ、昔は嘘をつくのが下手だった」
勝利の保証はない。
笑われる名前、無関心な有権者、制度の壁___すべてが現実だ。
だが、埴輪武人は本気で衆議院議員になるつもりだった。
名前がネタでも、制度が阻んでも、意思決定の「見えない場所」を揺さぶるために、彼はそこに立つ。