翌朝。
「……来てますね」
事務所で、幣呂幣呂彦が画面を見せる。
ネットニュースの見出し。
《
“埴輪ニキ”とは何者か? 奇妙な名前の無所属候補、役所前演説が話題》
《
名前はネタ、中身は硬派? 謎の新人候補に注目集まる》
Mtweetにて。
@本田ゴンザレス松風
わての愛しの埴輪
2026/01/07 22:12:14
AP Key: d933523d0085
YouTubeの切り抜き動画。
サムネイルには、太字でこう書かれていた。
――「
埴輪ニキ、正論を言ってしまう」
再生数は、一晩で跳ね上がっていた。
コメント欄は、二層に割れている。
《名前で損してる》
《意外とまとも》
《これはネタ枠?》
《でも言ってることは正しい》
「計画通り…なんつって。え?デスノート知らん?」
埴輪は言った。
「ええ。典型的です(無視)」
幣呂は冷静だった。
「政治を“内容”で語る前に、
まず“消費”される。これは今の標準です」
「利用されてる?」
「ええ。でも、こちらも利用します」
埴輪は画面から目を離さなかった。
「俺は、埴輪ニキでいい」
幣呂は一瞬、目を細めた。
「……それは、覚悟が要りますよ」
「名前で入って、制度で残る」
短い沈黙。
「悪くない戦略です」
幣呂は、そう言った。
同じ頃。GU民主党・広報チーム。
「“埴輪ニキ”がトレンドに入りかけてます」
「放置でいい。いじると逆効果だ」
「ただ……」
若手スタッフが言葉を濁す。
「制度の話を、一般層に噛み砕いてます。
しかも、敵を名指ししない」
部屋の空気が、わずかに変わる。
「……一番面倒なタイプだな」
選対責任者が、低く言った。
笑われる候補。
だが、炎上しない。
否定もできない。
政治の外側から入って、
政治の内側を叩く――
その入口として、「埴輪ニキ」は、あまりにも都合がいい。
「次は、どこで話す?」
誰かが尋ねた。
選対責任者は、モニターを見つめたまま答えた。
「次は……議会だ」
物語は、
ネットの笑いを踏み台に、
制度の中心へと近づいていく。