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Case03 制度

夜。事務所。

「反応は?」

「悪くない。動画、回ってます」

幣呂はスマートフォンを差し出した。
再生数は多くない。だが、コメント欄は荒れていなかった。

《名前で笑ってたけど、話はまとも》

《言ってることは正論》
《当選する気あるの?》

「十分です」

幣呂は言った。

「政治ドラマとしては、これで成立します」

「ドラマ?」

「敵がいないと、物語にならない。
 でも、あなたの敵は人じゃない。
 “決まり方”そのものです」

埴輪は、椅子に深く腰掛けた。

「俺は、勝てると思うか?」

幣呂は、即答しなかった。

「勝つ定義次第です。
 当選なら、限りなく厳しい。
 でも――」

「でも?」

「“見えない場所”を一つ、表に引きずり出すことはできる」

埴輪は、静かに頷いた。

「それでいい」

その夜。
GU民主党の選対本部。

モニターに、埴輪武人の演説動画が映っていた。

「……変なのが出てきましたね」

幹部の一人が言う。

「放っておけ。泡沫だ」

別の声。

だが、選対責任者だけは黙っていた。
再生数ではない。コメントでもない。

――“決まり方”。

その言葉が、妙に引っかかっていた。

政治は、制度で守られている。
同時に、制度で縛られている。

そして、制度を語る候補者ほど、扱いにくい存在はいない。

「念のため、動向を追え」

誰にともなく、そう言った。

埴輪武人の名前が、
初めて「無視できないリスト」に載った瞬間だった。
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