第一夜 〈星拾い〉
第2話 / 全2話 · 8,325字 · 約17分
「……ンで、結局今回の調査対象はドレなんや。」
「黒いキャップのあの人だよ。それっぽいネックレス付けてるだろ。」
「確かに、欠片っぽい感じしよるよーな? オマエ、ホンマにこの手のカンだけはよう効くんやな。」
すっと私が指を指す先の、ごく一般的な高校生に見える彼女。名前は早坂 舞と、これまたごく一般的。でもあの人が、今夜の私たちが追う調査対象。
願いを叶えるとされる“星杯”の欠片の、哀れな宿主だ。
「つーかアレ、調査書と顔ぜんっぜんちゃうやん。ホンマにアレなんか?」
「とりあえず人指さすのは良くないし、人に対してこれとかそれとか言うなよな、お前……」
ザァンネン、オレが言うたのはコレでもソレでもなくアレとドレですぅ、なんてべぇと舌を突き出す細目の男の頭を軽く叩きつつ、私……華園 林檎は、思わずため息を吐いた。
この仕事は信用がメインなんだから、頼むから余計なことはしないでほしい。言葉尻を捉えて遊ぶような事とか、まぜっ返して茶化してふざけるような事とか、特に。
「お、なんや美味そーなモン売っとるやん。なぁイヴ、アレ買わん? フツーの人っぽいカモフラージュにもなるやろ。あの……ホラ、名前の読み方分からへんアレ。」
「ん、どれ……って、大鶏排かよ。酔醒お前……あれ、このあいだ私が作って食わせたよな? 自分で作れるんだから買う意味ないだろ。」
追加。あの女性を見失いかねない行動を取るのも、混み合っている列に並ぶのも、色々とまずい。
特に今回は同化深度がかなり進んでいるから、ちょっと目を離した隙に手当たり次第に願いを叶え始めるかもしれないし。
何を言うかと思えば、全く。第一、一般人のカモフラージュならもう少し並んでないところで適当に買えば良いものを。
じっとりと睨んでみても、相棒はどこ吹く風だ。
「せやかてイヴ、こーゆートコで、こーゆー状況に食うからこそ美味いってコトもあるやろ?」
「お生憎様。私は労働の後、全部終わったーって気分で食べるのが好きなんだよ。どうしても食べたきゃ今食べてくれば良いんじゃないか?」
その代わり、依頼料は全部私がもらうけど……そう付け加えて、いってらっしゃいとばかりに手をヒラヒラ振る。
「オイオイそりゃないやろ!? 強欲にも程ってモンがあるんとちゃうか、ツレないやっちゃなぁ……」
あーあ、オレのダージーパイちゃん……なんてぶつくさ文句を言う相棒……賢蛇 酔醒と非常に不本意ながら手を繋いで引っ張りつつ、黒いキャップの女性とは一定の距離を取ったままズカズカ進む。
……こうも人が多いと厄介だな。仕事内容を普通の人に見られるわけにはいかないし……ごみごみしてるから、一歩進むのもめんどくさい。さすが横浜、ちゃんと都会だ。
ついでに知り合いや同業者に会うのも、この状況じゃあさすがにごめん被りたい。冷やかされるのが目に見えている。クソッタレ。
「なんや、急に手ェ繋ぐとかアベックっぽいコトしよって。気色悪いなぁ。」
「そーゆー設定な、設定! いっそいつもみたく首か足首掴んで引き摺り回してやろうかテメェ!!」
「……おーい、イヴ?」
「……あっ。」
やべ。うわ。周りの人含めて超こっち見てる……絶対気づかれたなこれ……
なんて、今度はため息を吐く暇もない。脇目も振らず一直線に、それでいて何かを察したように、ターゲットが逃げ出した。
ヒュウ、やっるぅ……と思わず呟く。思った通り、あり得ないぐらい足が速いし、誰かに引っかかって止まる事もない。あっという間に角を曲がって、私たちの目から消えた。
まるで、何かが彼女の願いを叶えているみたいだ。
普通に走っても追いつけないな、こりゃ。
「まぁオレら、一応今は側から見たら美男美女……美女? のカップルやし? 注目集めてまうのもトーゼンっちゅうか……」
「私は正真正銘美女だろ、何だよその疑問符……」
ん? 何かが違う気がする。
「って、言ってる場合か! 良いから追え!!」
「ヘイヘイ、分かっとうよ。ホンマ、ヒト使いの荒いやっちゃなぁ……」
そうぶつくさと言いながらも、酔醒はヒョイと私を抱え上げる。
あーあ、結局こうなったか。
「ほなバイナラ、オレらのコトは一旦忘れてもらおか。」
ダン、と地を踏み締めるようにして、私ごと夜の帳が落ち切った中華街の上空に飛び上がる。たん、たん、たん、と空中を蹴って進む姿は、ふわふわで真っ黒のファーコートも相まって、私たちを下から見たらきっと巨大な蝙蝠か何かみたいに見えているだろう。
……そう、本来なら。
眼下に広がる不夜の街を見ながら、私はほんの少しだけ優越感に駆られた。
特権を持つ者に特有の、というよりはもっと単純で、自分の空想の物語を書いている時のようなそれ。
どうもこうして空を飛び、ごみごみとしたネオンの灯を開けた視界に入れる時に顕著であるようにふと思った。
「お、まだおるやん。そこそこ進んどる割にまだ使いこなせてへんな。アイツ、まだまだ想像力が足りひんのとちゃうか?」
「こっちにとっちゃ大助かりだけど、な!!」
黒いキャップの彼女の目の前に飛び降りる。綺麗な顔、綺麗な肌、スラリとした手足。作り物めいた美しさの彼女はしかし、怯えたように後ずさる。
「ちょっと良いかな、お嬢さん。最近、何か拾わなかったか?」
「例えば、どーしてもコレは手に入れなアカン、て思ってまうよーな装飾品とか……な。」
ところで、その言葉を聞いた途端顔を引き攣らせた彼女に……私がこう言ったら、信じるだろうか?
この世界には“魔法”がある、と。
あり得ない。あるはずがない。
どんなに魔法の物語が好きな人でも、どんなに一生懸命に杖を振って魔法学校からの使者を待っていても、心の奥底ではちゃんと、そう思っているから。
だから、人は魔法を本当には信じない。
だから___たとえ本当に目の前で魔法が使われていても、人は魔法を見つけられない。
「な……何なのよ、あんたたち……! 急に、上から……」
彼女はやはり後ずさる。だが、後はもうどん詰まりだ。
「それが何となく分かってるから逃げたんだろ?
早坂舞。お前は最近、何かアクセサリーのようなものを拾った。そしてそれ以来、あらゆる事が上手くいくようになったはずだ。」
「っ!!」
顔を引き攣らせる彼女には、心当たりがありそうだ。こんな簡単な揺さぶりにも引っかかるなんて、全く場慣れしていない、紛う事なき一般人。
たまたま願いを叶える星の欠片を拾ってしまったせいで、こんな目に遭っている哀れな少女。
……もっとも、もうじき一般人じゃなくなりそうだけど。
「心当たりがあるなら手放せ。ロクなモノじゃないぞ、それは。」
「……ホントに、何言ってんの? 大体、別に誰かに迷惑を掛けた訳でもないじゃん……」
「今はまだ、な。せやけどこれから掛ける事になるで。主にオレらに。」
下手をすりゃ世界中巻き込むかもなぁ、オマエのせいで大勢死ぬかも分からへん、とぬけぬけと抜かす相棒の頭をまた叩く。余計な事を言うんじゃない、馬鹿。
「……お前に不利益をもたらす話じゃない。タダで手放すのが惜しいなら、ある程度の金銭ぐらいは出そう。多分、今もつけてるそのネックレスか?」
沈黙。それも、どちらかと言えば肯定によく似た類いの。
キッと私を睨みつけるその目に浮かぶのは、疑念、混乱、そして手放してなるものかという執着。ただし今回は、そんな単なる感情だけじゃない。
極めて物理的かつ現実的な現象として、彼女の目には星が瞬くような紋様が浮いている。
息を呑むほどに美しい煌めきは、彼女の目が日本人らしい黒である事も相まって余計に神秘的で、異質だ。思わず目的を忘れそうになるぐらいで……ただ、私はそれ以上の危機感で踏みとどまる。
いよいよもって本格的に拙い、一刻も早く星杯の欠片を手放させないと……
「……何よ、私の事ストーカーしてたわけ? キッショ。つーかウザいから、サッサと消えてよ……!」
「馬鹿、お前……!!」
そう彼女が憎々しげに吐き捨てた途端、私の世界が暗転する。拙い。今の彼女に消えろと願われたものは、本当に消えてしまう。
相棒が息を呑むような、微かな音すら鮮明に聞こえた。
足先から少しずつ、指先からじわじわと、感覚が、私自身が無くなっていく。どさり、と目線が低くなって、強かに腰を打つ。膝より先はもう残っていない。
蝋燭の火を吹き消すのと同じぐらい簡単に、人が人の命火を断つ。そんな状況でもやはり彼女が魔法を認識できないことが、妙におかしく思えた。
「テメェ……今自分が何したか分かっとんのか。」
「は? 何で、何が起きて……人が消えるなんてあるワケないでしょ!?」
少女は魔法を認めない。認めない以上、これはまだ彼女の魔法じゃない。だから、私には何もできない。
「そう、だ、どうせマジックとかでしょ!? ねぇ……」
「マジックなんかでこんなコトできるように見えるんか? なぁ、ノータリン。目ン玉かっ開いてよう見ぃ。オマエが願って、オマエがアイツを消しとるんや。せやから……」
少女は青ざめる。認めたくないとでも言うように首を振る。知らない、そんな事していない、そう繰り返すことで忘れようと努めているみたいだ。
「大人しゅうして拾ったモン渡し。さもなきゃ、朝日は拝めんと思えよ。」
底冷えしていく酔醒の声。文字通り周囲の温度が数度下がる。パキパキと霜の割れる音がする。あいつの魔法だ。
このままじゃあいつはこの子を殺しかねない。でも、私はそれを気にすることができるほど余裕があるわけじゃない。というかそもそも、私を殺しかけている相手を助けるほど優しくもない。
ない、はずだった。
「うるさいうるさいうるさい、知らないって言ってるでしょ!! 私何もしてないじゃない!!」
「チッ……もうええわ。」
スッと、酔醒が手を挙げる。バキバキと音を立てて相棒の手の上にできていく氷のナイフを見た途端、あ、死ぬ、とだけ思った。
そう思ったら、もう我慢ができなかった。
それは、私がこんなキッカイな仕事をやらなきゃいけなくなった理由を、ふと思い出したからかもしれないし……
「やめろ、酔醒。」
もっと単純に、私が案外甘かっただけかもしれない。
崩れていく足を、手を、無理矢理に“在る”と仮定する。言ってみれば、私の魔法で私を世界に固定するわけだ。我ながら無茶をする。だが、どういうわけだか上手くいった。上手くいってしまった。
そうなればもう、私がやるべき事も一つしかない。
うっすらと透けているそれで、早坂舞を押し退けた。
「……無理しなや。オレがやったる。今ならまだ所有者のコレさえ殺ってまえば、オマエは五体満足で復活やろ。」
「いいや酔醒、それはお前の仕事じゃない。止めろ。」
ビュオオ、と唸るように氷風が吹く。
「せやけど……」
「黙れ!! 星杯は自分の意思で手放させないと意味がない、知らないとは言わせないぞ!!!」
相棒の目がきゅうと開いた。鋭い瞳孔が顕になる。
いつ見ても恐ろしいほどに綺麗な瞳だ。吸い込むような夜空の色に、刺すような星の色の瞳孔がぽっかりと浮いている。
押しのけた少女は恐怖で震えるばかり。私は今にも消えそうな重体で、まったくもってどうしようもない。
「それは“命令”か? イヴ。」
……そう、賢蛇酔醒はこういう奴だ。こいつの体や魂は紛れもなく人。しかしこいつは人ではない。
私を生かすためならば、私を殺すことすら厭わない、人になった星杯の欠片。人らしい倫理や真っ当な思想から、最も遠いところにある男。
私はそれを知っている。
私は彼を知っている。
だからこそ、私はこいつを止める事を厭わない。
……すっと、息を吸い込んだ。キリキリと凍りつくような夜の空気が肺を満たす。それはまるで、心胆から私を少しずつ蝕んでいくような。
「いいや、“お願い”だ。……酔醒。手を出すな。」
だからその物騒な武器を収めてくれと、私はなんとか絞り出す。
ギリ、と歯を食いしばる。退いてなるものかと、負けじと眼帯越しに睨みつける。
「……“お願い”っちゅうならしゃあなしや。命拾いしよったな、早坂舞。」
震える彼女にあくまでも無関心に言い捨てると、興味をなくしたとばかりに飛んでどこかに行ってしまった。
「チッ……あいつ……」
はあ、と思わずため息をついた。適当な奴だ。
がたがたと震えるばかりの少女の前にしゃがみ込み、目を合わせる。彼女の目に浮いていたはずの唸るような星の輝きは、すっかりとなりを顰めていた。
私はおそらく数分も持たないから、私が消える前に拾ったものを渡すか決めてくれ、とだけ彼女に言って、そっと背をさする。でも、だって、を繰り返す彼女は上の空だ。
噛んで含めるように言い聞かせる。
「言っておくが、私たちはまだそれをお前から回収しようとする連中の中では比較的マシな方だ。次はどうなるか分からないが……死ぬかもしれないな。」
どうする? とだけ端的に聞いた。こういう時に酔醒がいると便利ではあるんだが、いないものは仕方がない。
無言でネックレスを外そうとする彼女を止める。恐怖に震える手で、それでも自分の中の何かと戦うように、無理矢理に引きちぎりかねない勢いだった。
「お前の意思で、お前が決めろ。そうだな……今日の記憶は消してやるし、お前は元に戻るだけだ。」
「でも……」
「ん?」
「私、かわいいままでいたいの。」
元に戻るなら、かわいくなくなるんでしょ?
静かな声だった。ともすれば、彼女自身の全てが掛かっているにも関わらず。
「ああ……まあ、そうなるな。」
彼女の調査書を思い出す。早坂舞。高校二年生。早生まれのため現在は十六歳。小太りで、明るくて、美味しいものを食べることが好きで、そして……
高校一年生で受けたいじめを原因として、現在は不登校。
調査書には、そう書いてあった。添えられた写真に写るのは、痘痕が顔にうっすらとある、良く言えば人好きのする、悪く言えば貶めやすい容姿。
「かわいくなって、自信がついて、いじめられなくなって、やっと人間に戻れると思ったの。」
豚とか、デブとか、もう言われなくなると思ったの。楽しく高校に通えると思ったの。
ぽつぽつと語り出す。ほっそりとした、作り物めいた美しさの彼女が。
「でも、私が死ぬのはやだ。怖いよ。
……私、なんとなく分かってたの。これに願えばきっと死なないんだろうけど、私が本当に私のままなのかは分からないって。」
「……実際に、動く死体になった宿主……あー、つまり、お前と同じように変なアクセサリーを拾ってしまった結果死に損なった奴を見たことがある。」
「……どう、なってたの?」
「子どもに聞かせる話じゃないが……願望器として不完全な状態では、死体は生き返らないし、失った機能は戻らない。腐った体を目の前にしているのに、本人すら違和感を覚えず楽しげに会話をしていたよ。」
……嘘だとしてもそれは嫌だな、と、彼女はそう呟いた。
夜は明けていく。私は、まるで朝日に覆い隠される月のように、ゆっくりゆっくりと消えていく。
「うん、嫌だ。だから、これはあなたにあげる。」
早坂舞はそっとチェーンを外して、ネックレスを私の透けていく胸の上に置いた。
あっという間に、私の体はいつも通りに動くようになる。ぐ、ぐ、と立ち上がって伸びをして、見ると夜は完全に明けていたし、彼女は調査書の通りの姿だった。
「……私は、お前の悩みに寄り添う事はできないが。ここに来てくれれば、メイクの手伝い程度の事はしよう。」
ひらり、と名刺をポケットの財布から出す。
「なにこれ。……華園探偵事務所? 変な絵……犬?」
「それはリンゴの絵。探偵事務所っていうのは、世を忍ぶ仮の姿だ。本業は、お前みたいな一般人からこれを回収する事。」
ガチャリ、と音を立てて手の上に現れたトランクに、渡されたネックレスを仕舞い込む。
「本当に、あなたたちってなんなの? 突然降ってくるし、突然変なもの出すし。」
「言ってなかったか? ただの魔法使いだよ。……おーい酔醒、そろそろ帰るぞ。」
そう呼びかけるなりどこからともなくまた、ふわりと上空から降りてくる。
「お、終わったんか。オマエも絶対その方がかわええで。あんなパチモンの皮被ってたっておもろないやろ。」
「余計なこと言うな、この馬鹿!」
早坂舞はぷっと吹き出す。
「魔法使いって……変なんだね……」
「ああすまん、こいつが特殊なんだ。普通はもっとお前達に近い、まともな考え方をする。」
そう、私たちは魔法使い。
その中でもありとあらゆる願いを叶えてしまう厄介極まり無い願望器、“星杯”の欠片を拾い、買い取り、奪い取り、蒐集する……
〈星拾い〉と呼ばれる類いの、あぶれ者だ。
「ああそうだ、お前の記憶についてだが。」
これを言うのは毎度、どうにも心苦しい。
「基本的にはここ数ヶ月の一件に関しては忘れて、代わりに別の当たり障りのない記憶を持っていてもらう事になる。」
「ええ……」
嫌そうな顔の子供を見るのは、個人的には最も避けたいもののトップスリーに入る。
ちなみに、一位はダントツで泣いている子どもだ。今にも第一位に変化しそうな顔の早坂舞を見て、思わずはあ、とため息をついた。
「……ただし、お前が望むならトラウマになるようなシーンはカットして……再発防止のために最低限の情報と体験を残しておく事もできる。周りの人の認識は当たり障りのないものになるがな。」
「……! いいの!?」
「私たちの事は誰にも知らせられないようにした上で、だが。その反応だとこっちが良いか?」
うん、とうなずいたのを聞き届け、そっと頭に触れる。トランクから薬を取り出して、飲むように言った。大人しく手に取り、飲み干したのを見届けて、そっと瞼を瞑らせる。
「今からお前は眠る。お前があのネックレスを拾ってからの記憶は全部、夢の中の出来事みたいに薄くなる。私たちの事を言おうとすると、言葉が詰まって言えなくなるし、文字に書いて伝えようとすれば、その文字は読めなくなるだろう。
でも全部本当だ。魔法も、願いを叶える力も、全て実在する。ほら、その名刺はよく握っておけよ。」
そっと、早くも船を漕ぎ出した少女を背負う。
この子はもう、人間でありながら魔法を知ってしまった。
知ってしまった以上、ひょんなきっかけで魔法が使えるようになってしまうかもしれないが……よほどのことがない限り、きっとそれはないだろう。
「だからもう、変なものを拾うんじゃないぞ。次は、助けてやれるとは限らないからな。」
完全に夢の世界へ辿り着いた彼女に、聞こえないと分かっていても声をかける。
「……ホンマ、どーしよーもないお人好しやな、オレのイヴは。」
「そんなんじゃない。ただの偽善だよ、これは。」
ほら、この子の家のベッドに寝かせてこよう。
そう言って、私は相棒に身を任せる。
がたりと音だけを残して消えたトランクを見送って、私たちは彼女を日常に戻しに朝焼けの中華街から飛び立った。
これにて、今夜の任務は完了。