読み切り
星の音星人のぴこらの母星時代のおはなし。
星の音星人の私、ぴこらの母星時代から地球に来るまでのお話。
このお話のほぼすべてはフィクションです。実在する惑星、法律、人物、団体とは一切関係はありません。
(ここからちょっとメタ注意!)
Mついやってなかったころ執筆した小説のブラッシュパップ版です。現在のぴこらの基盤となった物語ですが矛盾があるかもしれないです。
7,901字 約16分 18 PV

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星の外へ

7,901字 · 約16分
私の故郷、第3アンテ星は、とてもきれいな星だ。
そう言うと、たぶん地球人の人たちは「どんな星なの?」って聞くと思う。
銀色の高い建物が並んでいて、空には交通用のレーンが何本も走っている。道路はどこまでも整然としていて、建物の壁には細かな傷ひとつない。街のいたるところには監視装置やセキュリティシステムがあって、異常があればすぐに感知できるようになっている。
未来って言葉を絵にしたら、きっとあんな景色になる。
少なくとも、昔の私はそう思っていた。
朝になると決められた時間に目を覚まして、決められた時間に家を出る。学校では決められたことを学び、帰宅したら家族と食事をする。
食事だって、いつもほとんど同じだった。
「ぴこら、今日の分よ」
母がテーブルの上に置いたのは、いつものパウチだった。
私はそれを見て、思わず眉をひそめる。
「……またこれ?」
「またこれよ」
「昨日もこれだったよ?」
「昨日も今日も、あなたの身体に必要な栄養は同じでしょう?」
「そういう話じゃないんだけどなぁ」
 母は少し困ったように笑った。
「じゃあ、どういう話?」
「うーん……」
 私はパウチを指でつつく。
「たまには、形のあるもの食べてみたい」
「形のあるもの?」
「そう。なんかこう……噛むやつ」
「噛む必要があるの?」
「そこから!?」
 母がくすっと笑う。
「あなたは本当に変なことを言うわね」
「変じゃないよ。地球にはいろんな食べ物があるって資料に書いてあったもん。色も形も全然違うんだよ」
その瞬間、母の笑顔が少しだけ固くなった。
「……また地球の資料を見たの?」
「うん」
「ぴこら」
「なに?」
「見すぎないほうがいいわよ」
「なんで?」
母は少し黙ってから、静かに言った。
「あなたに危ないことをしてほしくないから」
その声には怒っている感じがなかった。
むしろ、心配しているときの声だった。
私は何も言わず、パウチの封を切る。
中から出てきたのは、今日も滑らかなペーストだった。
味は知っている。
栄養も知っている。
安全なのも知っている。
不純物が混ざらないよう、きちんと管理されていることも知っている。
だから、嫌いな食事じゃない。
でも。
「……やっぱり、地球のご飯食べてみたいな」
小さく呟くと、母は何も言わなかった。
ただ、少しだけ寂しそうに笑っていた。



第3アンテ星では、普通でいることが良いことだとされている。
普通の時間に起きて、普通に学校へ行って、普通に学んで、普通に働いて、普通に家庭を持つ。
みんなと同じであること。
大きく外れないこと。
目立ちすぎないこと。
それが美徳だった。
どうしてそうなったのか、私は授業で習った。
昔、この星は大きく不安定になったことがある。
何が原因だったのか、私が知っていることは多くない。第3アンテ星では、過去の混乱について必要以上に詳しく学ぶことは推奨されていないからだ。
ただ、その時代にたくさんの人が傷ついたこと。
社会が大きく乱れて、生活が安定しなくなったこと。
そして、もう二度とそんな時代を繰り返さないために、みんなで同じ方向を見ることが大切になったこと。
それだけは教えられていた。
「安定こそが平和です」
先生は黒板の前で、そう言った。
「個人の小さな自由よりも、星全体の安全を優先することで、私たちは穏やかに暮らすことができます」
私は手を挙げた。
「先生」
「はい、ぴこらさん」
「じゃあ、個人の自由がちょっとなくなっても、平和ならいいんですか?」
教室がしん、と静かになった。
先生は怒らなかった。
ただ、少し考えてから答えた。
「第3アンテ星に生きる人たちを危険から守るためなら、そういうことも必要です」
「……そっか」
「分かりますか?」
「うーん」
私は頬杖をつく。
「分かるけど、ちょっと変な感じ」
「どうしてです?」
「だって、みんなが安全に暮らせるようにするためなのに、どうして『やりたい』って思うことまで我慢しなきゃいけないのかなって」
先生はしばらく私を見ていた。
それから、優しい声で言った。
「あなたがそう考えること自体を、私は悪いとは思いません」
「ほんと?」
「ええ。でも、考えることと、実際に行動することは別です」
その言葉の意味は、すぐに分かった。
この星では、考えることまで完全に禁止されているわけじゃない。
ただし、決められた境界線を越えてはいけない。
特に、星の外へ出ることだけは。
それだけは、絶対に。



「ぴこらさん、外星領域に関する情報へのアクセス履歴があります」
ある日の放課後、私は呼び止められた。
「えっ」
「最近、外部の情報を多く閲覧していますね」
「……ちょっと気になったから」
「興味を持つこと自体を問題にしているわけではありません」
その言い方は、先生と同じだった。
「ただ、第3アンテ星では、星外への無許可アクセスを危険行為と定めています。場合によっては、重大な秩序違反と判断されます」
「……そんなに?」
「ええ」
私は唾を飲んだ。
「でも、どうして?」
「危険だからです」
「何が?」
「外の世界には、私たちが知らないことが多すぎます」
「だからこそ知りたいんだけど」
相手は少し困ったように私を見た。
「ぴこらさん」
「なに?」
「あなたに危険な目に遭ってほしくないんです」
その言葉を聞いた瞬間、私は何も言えなくなった。
結局、みんな同じなのだ。
止める理由は、私を嫌っているからじゃない。
私が邪魔だからでもない。
私が大切だから。
危ない場所へ行ってほしくないから。
だから、行ってはいけない。
そういうことだった。



その日の夜、私は家族と食事をしていた。
今日もパウチ。
今日も同じ味。
テレビには街のニュースが流れている。
何も問題は起きていない。
今日も安全。
今日も平和。
それなのに、私はどうしても落ち着かなかった。
「ねえ、お母さん」
「なに?」
「外って、本当にそんなに危ないの?」
母の手が止まった。
「……どうして急にそんなことを聞くの?」
「今日、先生に言われたから」
「そう」
母はしばらく考えてから、ゆっくりと口を開いた。
「外には、何があるか分からないの」
「うん」
「第3アンテ星と同じように、みんなが安全に暮らせる場所とは限らない」
「うん」
「だから、あなたには行ってほしくない」
「……怖いから?」
「違うわ」
母は私を見た。
「あなたを失いたくないから」
私はスプーンを持ったまま固まった。
「……」
「あなたが好奇心旺盛なのは知ってる。小さい頃からずっとそうだったもの」
「そんなに?」
「庭にある機械を全部分解しようとしたでしょう」
「だって中どうなってるのか気になったんだもん」
「一度壊したでしょう」
「……う」
母は笑った。
私も少し笑った。
それから、母は続けた。
「だからこそ、心配なのよ」
「……」
「あなたが何かを知りたいと思う気持ちを、私が否定するつもりはないわ。でも、外へ行くのは別。危険なことをする必要はないでしょう?」
「じゃあ、もし安全だったら?」
母が黙った。
「もし、本当に安全で、戻ってこられて、何も危なくないなら……それでもダメ?」
「……そうね」
「なんで?」
母は困ったように微笑んだ。
「きっと、今の私はそれでも怖いと思うわ」
「そっか」
私はパウチを見た。
ずっとここで暮らしてきた。
ここが私の家だ。
この人たちが私の家族だ。
この星の人たちは、私たちを守ろうとしている。
それは分かる。
だからこそ。
私は、ずっと悩んでいた。
私は第3アンテ星が嫌いなのか。
違う。
家族が嫌いなのか。
もちろん違う。
だったら、どうしてこんなに苦しいんだろう。



答えが出たのは、その数日後だった。
私は部屋の明かりを消して、窓の外を見ていた。
第3アンテ星の夜は、明るい。
建物の照明は消えない。
街は安全のために、いつでも一定の明るさが保たれている。
暗闇がない。
だから、星を見ることができない。
私は端末に保存されていた地球の画像を開いた。
そこには、真っ黒な空があった。
その中に、小さな光がたくさん浮いている。
「……星」
私は画面を指でなぞった。
「本当にこんなにあるのかな」
もっと大きな画像を開く。
星。
星。
星。
いくら見ても、全部は数えられない。
知らない。
私は知らない。
どんな音がするのか。
どんな匂いがするのか。
どんな風が吹いているのか。
どんな食べ物があるのか。
どんな人がいるのか。
どんな景色が広がっているのか。
「……知りたい」
口に出した。
部屋の中で、私の声だけが響いた。
「もっと知りたい」
もう一度。
「見てみたい」
そして、最後に。
「……伝えたい」
そこまで言った瞬間、自分の中で何かが決まった。
私は外の世界を知りたい。
でも、それだけじゃない。
見て終わりにしたいわけじゃない。
私が見たものを、いつか誰かに伝えたい。
この星の外に、私たちの知らない世界があることを。
普通じゃないものが、ちゃんと存在していることを。
違う考え方をしてもいい世界があることを。
私は知りたかった。
そして、伝えたかった。
「……行こう」
その言葉は、思ったよりずっと静かだった。



出発する準備は、簡単ではなかった。
星の外へ出るためのものなんて、普通の人が持っているはずがない。
私は何度も迷った。
途中でやめようとも思った。
家族の顔が浮かんだからだ。
「……どうしよう」
机の前で一人、呟く。
「お父さん、お母さん……」
怒るだろうか。
悲しむだろうか。
たぶん、悲しむ。
止めるだろう。
当然だ。
私だって、自分の大切な人が危険なことをしようとしていたら止める。
「……ごめん」
私は小さく呟いた。
「でも、行きたい」
窓の外を見る。
「私、知りたいんだ」
自分でも不思議だった。
あんなに怖いのに。
あんなに迷っているのに。
心の奥では、ずっとわくわくしている。
その感覚だけは、止められなかった。



出発の日。
家族との朝食は、いつも通りだった。
「今日、早いのね」
「うん」
「眠そう」
「ちょっとね」
私は笑った。
手元には、いつものパウチ。
「最後までこれかぁ」
「文句言わないの」
「だって、地球に行ったらもっといろんなもの食べるんでしょ?」
「……本当に行くつもりなのね」
母の声が少し震えた。
私はパウチを置いた。
「うん」
静かな時間が流れた。
「……ぴこら」
「うん」
「戻ってきてね」
胸が痛くなった。
「分かんない」
「え?」
「いつ戻れるかは、分かんない」
私は正直に言った。
「でも、ちゃんと生きて帰ってきたい」
母は目を伏せた。
「そう」
「それからね」
「なに?」
「いっぱい話す」
「……何を?」
「外で見たもの」
私は笑った。
「地球にはこんなのがあったよ、とか。こんな食べ物があったよ、とか。こんな人がいたよ、とか」
母は少しだけ笑った。
「あなた、本当にそういうの好きね」
「うん」
「分かった」
母は立ち上がって、私の頭をそっと撫でた。
「行ってらっしゃい」
その一言が、すごく重かった。
「……行ってきます」
私は笑った。
泣きそうだったけど、笑った。



外へ出るとき、私は何度も後ろを振り返った。
見慣れた街。
見慣れた建物。
見慣れた光。
全部、いつもと同じ。
なのに今日だけは、少し違って見えた。
ここで暮らす人たちがみんな、悪いわけじゃない。
むしろ、みんな一生懸命だった。
怖い思いをしたくない。
大切な人を失いたくない。
平和に暮らしたい。
だから、規則を守る。
普通でいる。
私が外へ出ることを止める。
私は、それを否定したくなかった。
「……ありがとう」
誰に言ったのか、自分でも分からない。
「今まで守ってくれて、ありがとう」
そして。
私は歩き出した。



星の外へ出た瞬間、世界が変わった。
「……え」
暗い。
本当に暗い。
でも。
「……わぁ」
その暗闇の中には、数えきれないほどの光があった。
右を見ても、左を見ても。
上を見ても、下を見ても。
星。
星。
星。
「こんなに……?」
私は思わず笑った。
「こんなにあるの……?」
地球の画像で見たことはあった。
でも、全然違った。
画面の中のものじゃない。
今、私の目の前にある。
私は窓に顔を寄せた。
「すごい……」
思わず声が漏れる。
そのときだった。
ほんの小さな音が聞こえた気がした。
ぽこん。
「……?」
私は耳を澄ます。
もう一度。
ころん。
きらん。
「……今の、なに?」
何の音か分からない。
宇宙船の音かもしれない。
機械の音かもしれない。
ただの気のせいかもしれない。
でも、私は笑った。
「星の音……だったりして」
もちろん、本当にそうなのかなんて分からない。
だけど。
「それ、いいな」
私は窓の外を見た。
「星の音」
その言葉を何度か口にしてみる。
「星の音……星の音星人……」
なんとなく、気に入った。
誰かがそう呼んでくれるわけじゃない。
正式な名前でもない。
ただの私の思いつき。
でも。
自分で決めたものって、こんなに嬉しいんだと思った。



地球が見えてきた。
青い星。
雲が浮いている。
海が広がっている。
夜の部分には、無数の光が見える。
「これが……地球」
私は息を呑んだ。
「すごい」
笑いがこぼれる。
「ここには、何があるんだろう」
海に入ったらどうなるんだろう。
雪はどんな味なんだろう。
風ってどんなものなんだろう。
地球人って、どんな人たちなんだろう。
どんな音楽があるんだろう。
どんな歌があるんだろう。
考えれば考えるほど、わくわくしてくる。
「早く行きたい!」
そして、胸の奥にある気持ちを、もう一度確かめる。
私は、この星を捨てるために来たわけじゃない。
家族を捨てるためでもない。
第3アンテ星を壊すためでもない。
ただ。
私は知りたかった。
世界がどれくらい広いのか。
私の知らないものが、どれくらいあるのか。
そして。
私が見つけたものを、いつか誰かに伝えたかった。
「……だから行くんだ」
私は小さく呟いた。
「私の知りたい世界へ」



地球に降りてからは、本当に驚くことばかりだった。
「人、多っ!」
最初にそう叫んだ。
街にはたくさんの人がいる。
服も違う。
髪型も違う。
話している言葉も違う。
笑い方も違う。
考え方も違う。
なのに、みんな普通に同じ街を歩いている。
「なんでこんなに違うのに、みんな一緒にいるの?」
私は道の端で呟いた。
そして、目に入った店の前で足を止める。
「……なに、これ」
ショーケースの中には、色とりどりの物が並んでいた。
「これ、全部食べ物?」
近くにいた地球人が笑った。
「そうだよ」
「これも?」
「うん」
「これも?」
「そうそう」
「えっ、じゃあこれも!?」
「全部だよ」
「すご……」
私は目を輝かせた。
パウチじゃない。
ペーストじゃない。
同じ形でもない。
同じ味でもない。
こんなに違っていても、誰もそれを「危険だからやめろ」と言わない。
私は胸の奥が、少しだけ熱くなるのを感じた。
「……来てよかった」
それは、母に言った言葉と同じだった。
でも今度は、自分自身に向けて言った。
「来てよかった」



地球で過ごす最初の夜、私は空を見上げた。
第3アンテ星とは違う、本物の暗い空。
たくさんの星。
私は、その一つ一つを眺めた。
故郷のことを考える。
お母さん、今どうしてるかな。
ちゃんと食事したかな。
私がいなくなって心配してるかな。
先生は怒ってるかな。
街の人たちは今日も普通に暮らしているかな。
私は、しばらく黙ってから、空へ向かって話しかけた。
「ねえ」
返事はない。
「私、ちゃんと見てるよ」
星が瞬く。
「第3アンテ星を出たこと、後悔してない」
少しだけ胸が痛い。
「でも、第3アンテ星のことを嫌いになったわけでもないよ」
風が吹く。
「だって、みんな私を守ろうとしてくれたもん」
私は笑う。
「だから、いつか伝える」
もっといろんなことを知ったら。
もっといろんなものを見たら。
ちゃんと自分の言葉で。
「外には、こんな世界があるんだって」
私は空を見上げた。
「こんなにきれいな星があるんだって」
そして、最後に。
「こんなに面白い世界があるんだって」
私は大きく息を吸った。
「だから――」
満面の笑顔で。
「地球人のみんなーーー!!」
夜空に向かって叫ぶ。
「ぴこっと参上ーーー!!」
声が響く。
「好奇心は銀河級ーーー!!」
少し恥ずかしい。
でも。
すごく楽しい。
私は笑いながら、もう一度空を見上げる。
星は何も答えない。
それでも私は、勝手にそう思った。
あの星たちは、ちゃんと聞いてくれている。
そしていつか。
私がもっとたくさんのものを知って。
もっとたくさんの歌を歌って。
もっとたくさんの言葉を覚えたら。
私は伝える。
私の故郷にも。
地球の人たちにも。
私が見つけた世界を。
「……さて」
私は立ち上がった。
「明日は何を知ろうかな」
もう眠る時間なのに、頭の中には新しい疑問がいくつも浮かんでくる。
知らない食べ物。
知らない場所。
知らない音。
知らない歌。
知らない人。
知らない世界。
「ふふっ」
私は笑った。
普通じゃなくてもいい。
怖くてもいい。
迷ってもいい。
私は、自分で選んだ道を歩く。
知りたいから。
見たいから。
そして、伝えたいから。
私は夜空の星を見上げた。
「おやすみ、地球」
ほんの少しだけ間を置いて、私は笑う。
「明日も、よろしくね!」
星がひとつ、瞬いた。
それを見て、私はまた笑った。
もしかしたら、今のは本当に。
星の音だったのかもしれない。

星の外へ 一旦完!
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