#2 神の痕跡
桐生一馬を見つけたのは、ミレニアムタワーの影だった。
いつもと変わらない背中。
無駄のない立ち姿。
街に溶け込んでいるはずなのに、妙に浮いている。
――いや、違う。
浮いていないのは、彼だけ。
思わず立ち止まった。
彼の頭の上には、何もない。
歪みも、影も、視線も。
空気は澄んでいるほど静かで、嫌な重さが一切ない。
おかしい。
この街に生きている人間で、
“見られていない”やつなんか、いるはずがない。
「... 、 なぁ 、桐生ちゃん」
呼ぶと、あいつはすぐ振り返った。
いつも見る、相変わらずの目。
人の奥を真っ直ぐ見るくせに、自分のことは語らない目。
「.... 、ぁあ 。 兄さんか 。」
その声を聞いた瞬間、
背後の視線が、一斉にざわめいた。
神が、桐生を見ていない。
いや、正確には――
見ようとして、弾かれている。
空気が、桐生の輪郭を避けるように歪む。
触れようとして、届かない。
まるでこの街の“外側”に立っているみたいだ。
「なあ 、桐生ちゃん」
笑った。
いつもの調子で、喉は乾いたまま。
「自分 ... 、神様に嫌われとるで 。」
彼は眉一つ動かさない。
ただ、ゆっくりと首を振った。
「 …… 、何を言ってるんだ 。 兄さん ... 。」
その瞬間、確信した。
こいつは、
最初から見られていない。
善悪ではない。
業の深さでもない。
理由なんか、神にすら分からないのだろうか。
彼はこの街で生きながら、
神室町の神の外にいる。
だからか。
神は、自分を見た。
そして、彼を見ない。
選ばれたのではない。
拒まれたのでもない。
ただ――
理解してしまったのが、自分だけだった。
「... 。気ぃつけや 、 桐生ちゃん 。」
思わずそう呟いた。
意味などないと分かっているのに。
空気が一瞬止まった後、言葉を続ける。
「 ... 、この街な 。
見とるで 。」
彼は一瞬、空を見上げた。
もちろん、何もない空を。
「.... 、何も感じない 。」
その言葉を聞いて、
自分の背中を、冷たいものが走った。
神は、
見える人間だけを、
逃がさない。
end__
"それ" ☞