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第5話 / 全11話 · 1,586字 · 約4分
# 第4章 文化祭の準備
## 1
文化祭まで、あと二週間。
颯太は亮太に引きずられるようにして、文芸部と合同の企画——「お化け喫茶」——の準備に駆り出されていた。
「なんで俺が飾り付け……」
「いいじゃん、青春っぽくて」
亮太が笑いながら、段ボール箱を運んでいく。
教室の中央では、文芸部の面々がテーブルクロスを広げていた。その中に、林の姿もある。
「加藤くん、これ天井に吊るせる?」
振り返ると、林が折り紙のチェーンを持って立っていた。
「ああ、いいよ」
颯太が受け取ると、林が「ありがとう」と笑う。それだけで、面倒だった準備も悪くないと思えるから、単純だった。
脚立に乗って、チェーンを吊るす。下から「右、もうちょい右!」「そこでストップ!」と指示が飛ぶ。
全部吊るし終わって、脚立を降りようとしたとき。
「加藤くん、危ない!」
林が駆け寄って、脚立を支えた。
「あ、ありがとう」
「もう、気をつけてよ」
林がすねを軽く叩く。その手つきが、彼女の温かさを伝えてくる。
「……なんか、夫婦みたい」
後ろから亮太の声がした。
「なっ!?」
「高梨くん!」
林が顔を真っ赤にして振り返る。亮太は「へへ、すいません」と言いながら、逃げていった。
二人だけ、取り残される。
「……ごめん、亮太が」
「ううん。別に……」
林が俯く。耳の先が赤い。
「気にしてない、から」
颯太の胸が、跳ねた。
## 2
文化祭当日。
「お化け喫茶、結構繁盛してるね」
林が給仕の合間に、颯太に囁いた。
「ああ。亮太の頭脳はすごいな」
「高梨くんって、頭良いもんね」
二人で笑う。
ふと、林が何かを思い出したように言った。
「そうだ。加藤くん、ちょっとだけ時間ある?」
「うん。今は大丈夫だけど」
「じゃあ、ついてきて」
手を引かれて、教室の裏手に連れて行かれる。
「ちょっとだけ、抜け出そ」
林がいたずらっぽく笑った。
## 3
屋上には、誰もいなかった。
文化祭の喧騒が、遠くで聞こえる。秋の風が、気持ちよかった。
「ここ、私の秘密の場所」
林がフェンスに寄りかかって言った。
「前から知ってたけど、加藤くんと来たかったんだ」
風が、林の髪をなびかせる。
「加藤くんさ。最初、ちょっと怖かったんだよ」
「え? なんで?」
「だって、全然話しかけてこないし。いつも一人でスマホ見てて。でも、駅で助けてくれたとき、すごく優しい人だなって思って。それから、ずっと気になってた」
ずっと気になってた。
その言葉が、颯太の心に深く染み込んだ。
「俺も」
「え?」
「ずっと、見てた。電車の中で。林さんのこと」
林の目が見開かれる。
「……知ってた」
「え?」
「知ってたよ。視線、感じてたから」
林が笑う。いたずらっぽい笑顔だった。
「毎朝、後ろの方から見られてるなって。最初は気持ち悪いと思ったけど——でも、加藤くんが助けてくれて。やっぱり悪い人じゃないんだって思った」
全部、知られていた。
颯太は恥ずかしさで顔を覆いたくなった。
「恥ずかしすぎる……」
「ふふ。でも、嬉しかったよ。本当に」
林が一歩、近づく。
「加藤くん」
「……何?」
「また、一緒にどこか行かない?」
返事の代わりに、颯太はうなずいた。
文化祭の音楽が、遠くで鳴り響いている。