表示設定

文字サイズ
行間
フォント
背景
文字方向

07_chapter7

第8話 / 全11話 · 1,076字 · 約3分
# 第7章 花火の夜

## 1

夏祭り。

浴衣を着た林を最初に見た瞬間、颯太は固まった。

白地に朝顔の模様。髪を少し上げて、かんざしを挿している。いつもと違う雰囲気に、言葉を失った。

「……どう?」

「……やばい」

「やばいって何」

「可愛すぎて、やばい」

林の顔が一気に赤くなった。

「そ、そんなストレートに言われると照れる……」

「だって本当だから」

付き合ってもないのに、こんな甘い会話をしていいのだろうか。

## 2

屋台を巡りながら、二人は祭りを楽しんだ。

りんご飴を食べながら歩く。射的で颯太がぬいぐるみを取って、林に渡す。金魚すくいで林が一匹もすくえなくて、颯太が代わりにやる。

「颯太、器用だね」

「バスケ部だから手先は割と」

「カッコいい」

そう言われて、颯太の照れが隠せない。

## 3

花火が上がる直前、林が言った。

「ねえ。さっきの公園、行かない?」

噴水の前。あの日、言いかけで終わった場所。

二人で並んで座る。花火が上がり始める。

ドーン、という音とともに、夜空に大輪の花が咲く。

「きれい……」

林が呟く。その横顔が、花火に照らされて、何度も何度も色を変える。

「桜」

「ん?」

「——ちゃんと、言うわ」

颯太が林の方を向く。林も、颯太の方を向く。

「好きです。俺と、付き合ってください」

花火の音が、一瞬静かになった気がした。

林の目が、潤む。

「……やっと言ってくれた」

同じ言葉を、もう一度聞けた。

「……はい。喜んで」

林が笑う。花火よりも、きれいな笑顔だった。

「好き。大好き」

そう言って、林が颯太の肩に寄り添った。

暑い夏の夜なのに、その温もりが、世界で一番心地よかった。

## 4

花火がクライマックスを迎える頃。

「ねえ、颯太」

「何?」

「もう一回、ちゃんと言って」

「何を?」

「……だから、あれ」

林がもごもごと言う。

「……付き合ってください、って」

颯太が笑った。

「好きです。付き合ってください」

「はい。よろしくお願いします」

林が顔を上げる。その目が、まっすぐに颯太を見つめる。

「私も。大好き」

二人の影が、花火に照らされて、ゆっくりと重なった。
« 前の話 目次 次の話 »

この話への感想

まだ感想はありません。