08_epilogue
第9話 / 全11話 · 909字 · 約2分
# エピローグ 毎朝、君と
## 1
夏が終わり、秋が来て、また春が来た。
朝の渋谷駅。8時17分。
颯太はホームで待っていた。隣には、桜が立っている。
「おはよ」
「おはよ。ちゃんと起きられた?」
「ギリギリ」
桜が笑う。もう手を繋ぐのも、自然なことになっていた。
電車が来る。二人で乗り込む。
以前は別々の場所に立っていた。今は、隣同士。
## 2
「ねえ、覚えてる?」
「何を?」
「ここで初めて、颯太に助けられたこと」
「覚えてるよ。忘れるわけない」
「あの日から、始まったんだね」
「そうだな」
電車が揺れる。肩がぶつかる。そのたびに、意識してしまう。
「あの時さ」
「うん?」
「実はね、わざとじゃないんだ」
「え?」
桜がいたずらっぽく笑う。
「転びそうになったのは、本当。でも——」
「でも?」
「あのホームで、颯太がこっちを見てるの、ずっと気づいてて。だから——いつか話しかけなきゃって思ってた」
颯太の目が、見開かれる。
「じゃあ……まさか」
「うん。転んだふり、じゃないけど。チャンスだと思ったの。颯太なら、助けてくれるって」
全ては、計算済みだったのだ。
「……ずるい」
「ふふ。恋は、ずるいんだよ」
桜が笑う。幼い笑顔に、ちょっとした悪女の顔が混ざっていた。
## 3
電車の窓の外。街が流れていく。
「でもさ」
颯太が言う。
「俺は、毎朝あの場所で待ってたよ。桜が来るのを」
「知ってる」
「やっぱりバレてたか」
「うん。バレバレ」
桜が颯太の手をぎゅっと握る。
「でも、それも全部、今につながってるんだよね」
「そうだな」
「じゃあさ、明日も、明後日も——ずっと、一緒にいてくれる?」
「——当たり前だろ」
颯太が桜の手を、握り返す。
窓の外を、春の光が照らしていた。
---
おわり