目次に戻る すくらっぷうーまん

〈第一話〉朝の湊と装置

朝の光は、湊の部屋のカーテンをやわらかく透かし、

机の上に置かれたネジや工具の影を細く伸ばしていた。

湊は、その光の中で小さなネジを指先で転がしながら、

静かに息を整えていた。

カチ、カチ、とネジが机にあたる音は、

まるで湊の心臓の鼓動と同じリズムを刻んでいるようだった。

人と話すときは胸が固くなり、

言葉が喉の奥でつっかえてしまうのに、

どうしても”もの”と向き合っている時だけは、

世界が自分に優しくしてくれているように感じる。



机の端には、母の形見の装置が置かれていた。

金属の表面は少し曇っていて、

触れるとひんやりとした冷たさが指先に伝わる。

けれど、その奥にはどこか暖かい気配が潜んでいるようにも思えた。



湊は装置をそっと持ち上げ、

光にかざしてみる。

内部の構造は見えない。

何に使うものなのかもわからない。

ただ、母が最期まで大切にしていたという記憶だけが、

湊の胸の奥に静かに残っている。


「......今日も動かない、か」


ぽつりとつぶやいた声は、

朝の静けさに吸い込まれていった。



湊は装置をそっと机に戻し、

ランドセルを背負った。

玄関の扉を開けると、

冷たい朝の空気が頬を撫でた。


「心にも、仕組みがあればいいのに」


その言葉は、

湊自身にもよく分からない願いだった。
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