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〈第二話〉パン屋の看板のふしぎ

家を出て数分歩くと、

いつものパン屋の前に差しかかった。

焼きたてのパンの匂いが、

朝の空気に混ざってふわりと漂ってくる。



その店先にある古い木製の看板が、

今日もカタカタと揺れていた。



風はほとんど吹いていない。

湊の髪も、洋服の裾も動かない。

なのに看板だけが、

まるで自分の意思を持っているかのように揺れている。



「......なんでだろ」



湊はしゃがみ込み、

看板の足元の金具の部分をじっと観察した。

金具は少し錆びていて、

木の板には細かなひびが入っている。

揺れるたびにそのひびがわずかに開いたり閉じたりしていた。



湊は揺れのリズムを数え、

揺れ幅を目で追い、

看板の影の動きまで確認した。



(風じゃない。

 じゃあ、何が動かしてるんだろう)



看板の裏側に回り込み、

地面と接地部分を指で触ってみる。

土台は少し傾いているようにも見える。

でも、それだけでこんなに揺れるだろうか。



「......ふしぎだな」



湊は立ち上がり、

もう一度看板を見つめた。

揺れるたびに、

胸の奥に小さな火が灯るような感覚があった。
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