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二 異同

第2話 / 全3話 · 1,331字 · 約3分
 転載とは、コピーである。手作業で写せば誤字が生じることはあるだろう。だが私が集めた十二件は、いずれもコピー・アンド・ペーストで作られた形跡があった。それなら本文は一字も変わらないはずである。
 変わっていた。
 「無題」の中盤に、娘が家に着く場面がある。同じ段落を、投稿された年の順に三つ並べる。

資料三 転載版の異同(同一段落の比較)



版A(二〇一九年・現存する最古の転載)

【名前】ちゃんは、ながいたびから、かえってきました。
げんかんのドアをあけると、だいどころから、おみそしるのにおいがしました。
おかえりなさい、と、こえがしました。



版B(二〇二〇年)

【名前】ちゃんは、まだ、かえってきません。
だから、こんどは、こちらから、むかえにいくことにしました。
くらいみちも、へいきです。なまえを、よべばいいのです。



版C(二〇二二年)

【名前】ちゃんのいえは、かいだんをのぼって、ふたつめのへやです。
でんきのメーターが、まわっています。いるのは、わかっています。
ドアのまえで、まっています。


 三つの版で、話の向きが反転している。版Aは帰ってくる話である。版Bは迎えに行く話である。版Cに至っては、もう着いている。
 付け加えると、【名前】の表記は原文のままである。転載者が変換タグを処理しなかったため、入力欄に何も入れなければこのように表示される。十二件すべてで、ここは【名前】のまま残っていた。
 誰も名前を入れずに転載した、ということになる。
 それなら、誰が読んだのか。




資料四 版C転載者のSNS投稿(二〇二二年十月)


 版Cを転載したアカウントは特定できている。都内の大学生(当時二十歳・男性)。以下、公開範囲の投稿を抜粋する。


10月2日
バイト代入ったから今日は鍋 白菜が高い

10月9日
変な小説ひろった 消えそうだから供養に転載しとく

10月14日
最近アパートの階段で夜中に足音する
上の階の人だと思うけど時間が毎回同じなのが気になる

10月17日
夢で名前呼ばれた
起きたら喉痛かった なんで俺の喉が痛いんだ

10月19日
ドアスコープ覗くのやめた


 最後の投稿を最後に、更新は止まっている。大学には十月末から出ていない。実家にも戻っていない。
 彼の下宿はアパートの二階で、外階段を上がって二番目の部屋だった。
 念のため書いておくが、版Cが転載されたのは十月九日である。「かいだんをのぼって、ふたつめのへや」という文言は、その時点の版Cにすでに含まれていた。彼が書き加えたのではない。
 順序が、逆なのだ。




 ここまでが、十一件の系譜から分かることのあらましである。残る一件、どの系譜にも属さない版について、次で述べる。
 その前に一つ、記録しておくべきことがある。昨夜、手元に保存してある当該版の文字数を確認したところ、初回保存時の記録より三百二十字増えていた。
 差分を取ったが、どの箇所が増えたのか、特定できなかった。
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