帰った日。
第2話 / 全2話 · 822字 · 約2分
雑居ビルの二階、八神探偵事務所。
海藤さんの気配はなかった。きっとまだ、東と共に杉浦のことを探しているのだろう。
黒い革のソファの上に、ジャケットごと杉浦を降ろす。
改めて見ると、すごく小さい。
本当に杉浦が子供になったみたいだ。
「....なぁ、杉浦。」
杉浦の耳がぺたんと倒れている。撫でてほしいのか。猫の捜索の依頼を親からのおつかいよりも受けた自分ならわかる。
本当の猫のように、頭頂部を撫でる。
「本当に覚えてないのか?俺のこと。」
杉浦はこくっと小さく頷いた。
「ほんとに知らない。マジで誰。」
口調も本当に変わってなかった。この頃からこんな人間だったんだな、と改めて感じる。
___その時、バン、と扉が開く音が温まった空気を粉々にした。
「ター坊!!杉浦いたか?!」
呼び方からわかる。海藤さんだ。
杉浦の耳がぴんと立った。
「....うるさい。」
声の方に目線を向ける。大正解だった。
どかどかとこっちに近寄ってくる。
「ター坊!!それなんだ?」
海藤さんが杉浦を覗き込むと、顔色が変わった。
「...猫?いや、杉浦だな....。あれ、ん?杉浦?」
完全に困惑していた。そりゃ無理はない。あんなパルクールでビルの間を飛び越えていた青年が、こんな猫のような姿になってしまうとは思いもしないだろう。
「海藤さん、東はどうした。」
「あ、東はシャルル行ってるぞ。『いるかもしれない』とか言いながらな。」
杉浦はいつの間にか、自分の後ろに隠れていた。
「....ほら、声デカすぎて隠れちゃったじゃん。」
ちらちら海藤さんの様子を伺っては、また後ろに隠れる。まるで、自分より怖い生き物を見つけたときの子猫みたいな。
「....こわい。」
「ほら、杉浦のためにも声量抑えてやってよ。可哀想でしょ。」
「....」
口をもごもごさせながら、海藤さんが珍しく黙った。あの海藤さんが。