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禍象#004『顔のない拝み屋』

第6話 / 全12話 · 1,939字 · 約4分

■ アーカイブ記録:禍象かしょう#004『顔のない拝み屋』
(※本ファイルは、大正期における『禍象記録会』の調査報告書を現代語に翻訳・編纂した記録である)


【起源分類】 実体種
【性質分類】 捕食型
【発見地】 日本国 A県(青森県) 面伏村
【発生時期】 大正7年〜(1918年〜)




【概要】
本記録は、特定の疾病を物理的・概念的に「吸い取る」能力を持ちながら、その代償として対象者の顔面器官(目・鼻・口)を完全に消失させる人型異常実体に関する調査記録である。
通称「顔のない拝み屋」。人間の成人男性に酷似した外観を持つが、常に深い笠を被り、顔面を露出しない。スペイン風邪の被害が甚大であったA県の山間部村落に出現し、祈祷と称して重症患者との接触を図った。
本実体と接触した患者は、体内のウイルスおよびあらゆる疾患が瞬時に消滅して「完治」するが、数時間後に顔面の全器官が物理的に消失(皮膚が完全に癒着した状態)し、呼吸不能または摂食不能により死亡する。




【発見の経緯】
事象の発生はスペイン風邪(1918年〜)の流行期と符合する。
日本国内でも数十万人規模の死者が発生していた当時、A県山間部の該当村落では近代医療の介入が遅れ、村民の半数以上が罹患していた。
事後の調査により回収された村長の備忘録によれば、村が全滅の危機に瀕していた冬の夜、「流行り病を祓う」と名乗る見知らぬ祈祷師(本実体)が村を訪れた。村民は本実体を招き入れ、重症患者を集めた集会所での「祈祷」を許可した。




【事象の発生と被害】
禍象記録会かしょうきろくかい』が現地に到着した際、村落内に生活音はなく、集会所および各家屋から顔面器官を喪失した状態の遺体が計数十体発見された。
当時の検死記録および唯一被害を免れた生存者(祈祷師との面会を拒否していた軽症者)の証言から推測される事象の全容は以下の通りである。

1. 実体による接触と疾病の吸収
生存者の証言によれば、実体は患者の枕元に座り、患者の顔面に自らの顔を近づけて深く呼吸するような動作を行った。
接触を受けた患者は直後から高熱・咳・呼吸困難が消失し、数十分後には自力歩行が可能な状態まで回復した。記録会の事後解剖でも、顔面を喪失した遺体の肺や内臓からウイルス性肺炎の痕跡は検出されなかった。加齢による軽微な疾患すら認められていない。実体は患者の体内から「病」という概念そのものを物理的に除去していたと推測される。

2. 顔面器官の消失
回復から約3〜4時間が経過した時点で、患者の顔面に異常な変化が発生した。
目・鼻・口の境界線が急速に曖昧になり、皮膚が癒着して数分で顔面は完全に平坦な状態に移行した。

3. 窒息および餓死
鼻腔・口腔を完全に塞がれた患者は呼吸困難に陥り、自身の顔を爪で掻き毟りながら窒息した。一部の患者には気管確保を目的として自身の喉に刃物を当てた痕跡が見られたが、不正確な自傷行為により失血死に至っていた。
呼吸可能な隙間が残った少数の患者も、水・食物の摂取が不可能となり、数日後に全員が死亡している。




【最終処置】
記録会の到着時、村内に本実体の姿は確認されなかった。
本事象が外部に発覚した場合、伝染病への恐怖と相まって集団的混乱を引き起こすと判断された。記録会は警察上層部と連携し、「スペイン風邪の重篤な変異株による村落の全滅」を流布した。感染拡大防止を名目として村全体を隔離した上で、顔面を喪失した遺体をすべて集会所に集め、重油で焼却処分を実施した。

事後、A県周辺で類似の事象は確認されていない。本実体は現在も行方不明である。
本禍象は実体の捕捉に至っておらず、「経過観察(未解決)」とステータスが定義された。



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