目次に戻る すくらっぷうーまん

〈第四話〉佐伯さんとの出会い

パン屋の前で看板を見つめていると、

背後から軽い足音が近づいてきた。

トトトッ、とリズムよく響くその音は、

湊の知っている誰かの歩き方だった。



「また見てるの? 湊くん」



振り返ると、佐伯さんが立っていた。

朝の光を受けて髪が少しだけ透けて見える。

いつも明るくて、誰とでもすぐに話せる子だ。



湊はとっさに視線を落とした。



「え、えっと......その......」



言葉が喉の奥でつっかえる。

でも佐伯さんは気にした様子もなく、

看板の前にしゃがみ込んだ。



「これさ、昨日も揺れてたよね。

 風、そんなに吹いてなかったのに」



湊は驚いて顔を上げた。

自分以外に、この”ふしぎ”に気付く人がいるなんて。



「......うん。なんで揺れてるのか、分からなくて」



「ふーん......あ、ここ。金具、ちょっとゆるんでるよ」



佐伯さんは看板の裏側をさした。

確かに、金具の一部が少し浮いている。


(ぼく、そこまで見てなかった......)



湊の胸の奥で、小さな衝撃が走った。

自分だけが気付いてると思っていた”ふしぎ”に、

誰かが同じように目を向けている。



それが、なんだか嬉しかった。



「じゃ、またね!」



佐伯さんは手を振って走り去っていった。

その背中は、朝の光の中でまっすぐ伸びていた。



湊はしばらくその場に立ち尽くした。

胸の奥が、ほんの少しだけ温かい。
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