十話
第12話 / 全15話 · 2,133字 · 約5分
−−玲音視点−−
「ただいまー」
「おかえり」
家に戻り、莉音の返事を聞くと、横から神様が姿を現した。
「おかえり、玲音」
「ありがとう、神様」
部屋に着くと、神様が話しかけてきた。
「…ねぇ、玲音。さっきは、あれを選びたかったんじゃないの?」
ーーーーー
学校の休み時間、クラスメイトが何か話していたから僕や友達がそこに行くと、女子たちがいろいろなものを持ってきていて、誰に何が似合うかを話していたところだった。
「あ、玲音!玲音は何が似合うかなー」
「どれがいい?」
「えーっと、僕は…」
その時、可愛らしいピンが目に入った。少し大きめの形をしていて、ほんのりとしたピンクや黄色で彩られた、前髪をとめるような可愛いピン。それに魅入られて、僕は無意識に手を伸ばしていた。
「玲音?」
「……!」
僕は一体何をしていたんだろう。あんなに隠すと心に決めたのに。
ピンに向かって伸ばしかけていた手を、隣にあった暗い青色のネクタイに向けた。
「うちの制服には合わないけど、こういうのつけてみたいよねー!!」
「確かに〜」
「玲音似合いそ〜!」
ーーーーー
とまぁ、神様が言っている『あれ』というのは、さっき僕が手を伸ばしかけていたピンのことだろう。
「だって、きっと僕には似合わないよ。…女の子じゃないんだし」
「女の子じゃないとダメなの? 似合わないとダメなの?」
「あーいうのは、女の子たちが可愛く身につけるものでしょ…? それに、似合わないのにつけてたら…悲しくなる」
「うーん、そっかぁ…。じゃあ、似合うように努力すればいいんじゃない?」
「え?」
「だって、そうすればいいと思わない? それに、女の子にしかつける権利がないわけじゃない。つけたかったらみんな、誰でもつけていいんだよ」
「だって…」
「じゃあ君は、君が飼っている犬が可愛く着てる服に対して、男の子なんだから着るのやめろって言って、脱がせるの?」
「え、さすがにそんなことしないよ」
「じゃあいいじゃん。君が言ってるのは、そういうことだよ?」
「いや、犬と人間は違うよ」
「違う?じゃあ、何が違うの?」
「それは……」
「ほら、言えないし、あんまり見つかんないでしょ?」
神様は不思議だ。僕の否定的な考え方を否定したと思えば、次の瞬間突拍子もないことを思い浮かべて例としてだす。本当に、不思議だ。でも、なんだか楽になった気がする。
「ありがとう、神様」
神様は笑顔で返してくれた。
−−莉音視点−−
何やら下で言い合いが続いていると思えば、玲音はスッキリとした表情で上がってきた。
「ふっ。おかえり、玲音」
「…うん、ただいま!」
うん、いい笑顔。よかった、これで玲音は少しは楽になれたのかな。
「ありがとね、神様」
『ふふ、どういたしましてだよ』
そっと呟くと、頭の中に神様の声が響いた。
本当に、ほんとうによかった。
だけど……、またあたしは、置いてかれちゃったかな。
「置いてかれてなんていないよ」
「え、神様…?」
「みんな、歩みは人それぞれなんだから…って言いたいところだけど、残念ながらぼくはそんな考え方じゃない。」
また、綺麗事を言われるかと思った。
「ぼくの考え方はね、『置いていかれたと思うんなら、追いつけばいい』だよ」
「は……?」
きっとそんなの、大変すぎる。流石にちょっと……
「『無理がある』って? そう、大変だ。大変、だからこそ、人は助けを求めて、支え合うんだ」
「そ…んなの、できるわけないじゃん…。悩みを打ち明けた時に、どんな反応をされるか考えるのが、どれだけ怖いことなのか、神様は知らないし、わからないから言えるんだよ…。実際、言ったときだって…!!」
「わかるよ」
「え……」
神様は、ふわりとあたしを抱き寄せた。
「わかる。だって、ぼくはずっと、君を見てたんだから…。苦しい思いをしてたのも見た。周りに拒絶されて、どんどん心が病んでいく姿も見た。打ち明けようとしても、受け入れてもらえるかわからなくて、悩んで、悩んで、言えなかった姿だって見た。自分はきっと恋愛対象としてすら見られてないと思い、傷つく姿も見た。…君の気持ちをわかりたくて、君のその時の感情を、ぼくにも感じさせてもらったこともある。……辛かったよね。もう、うんざりだよね。もう傷つきたくないから、自分の方から拒絶するしかないんだよね。」
涙が服を濡らした。ただ、その雫は、あたしのものじゃなかった。
「今まで生きててくれてありがとう。君と話せてよかった。別に、ぼくだけを頼れとは言わない。ただ、君のことを知ってる以上、頼りやすいとは思う。だから、ぼくに頼ることを、人に頼る練習にしてみない…?」
「神様も、泣くんだね…」
「…泣くよ。悲しい時は泣く。苦しい時も泣く。だから、今度は嬉しい時に泣かせてくれる…?」
「…うん。泣いてくれて、ありがとね。神様」
神様は黙って頷いた。
本当に、ほんとうに、ありがとう、神様。